エレキギターでお前をぶん殴るまで

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中学二年生の時にあるギタリストに惚れた。以来、エレキギターと彼此6年寝食をともにしてきた。

 

黄色いボディで黒いピックガード。いつも膝に抱えてばかりだった。レリック加工に憧れた時は金槌で殴ったり、演奏後にギター破壊するようなギタリストに当てられた時には畳に思いっきり叩きつけたりしてた。鼻糞をつけて「これがロックよ」なんて思ってたこともある。

 

ある日はエアギター。来る日もエアギター。いつしか「暴れて弾けないギタリストはダメ。大学の軽音サークルには入りたくない」なんて宣いやがった。「嘘はつかない。でも本当の事も言わない」という母親の言葉が今も好きだ。本音は下手なのがバレるから。建前は一人で弾きたいから。今思うと部屋で竿をしごいてオナってる事実を他人に自慢する変態としか言えない。

 

人前で演奏する機会は結局一度も無かった。人前で演奏してからせめてロックを語ればよかった。「最高のオ◯ニーだぜ!」って。学祭で演奏する姿を妄想していったい何度シコったか。

 

あるアニメの好きなセリフ、「真のスラッガーは現実のボールを打つ前に、まず心の中でアーチを放っているのさ、、、」という言葉。何とも形容出来ない描写と、力いっぱい投げられたどストレート。ロックに型は無いなんて心のどこかで思いながらも、私は型が欲しかった。私を引きずり回してくれる型が。突き動かしてくれる型が。

 

いつしかギターは全く弾かなくなった。それでもストラップをつけて鏡の前に立ってニヒルなフリして笑うこともあった。指が指板の上を走らなくなった。ローションでも使えば気持ちよくなれたかもしれない。だけどいつも竿をおっ立ててニタニタ笑うだけだった。

 

やはり軽音サークルにでも入るべきだったかもしれない。新しい出会いもあったはずだ。なのに怠けてしまった。バンドでお互いの竿を自慢したり兜合わせしたりなんて夢をたまに見てしまう。ただ私が演奏しようとする時に必ず眼が覚める。言うまでもなく寝覚めが悪い。

 

そしてある日、とうとう「手放すか」と思ってしまった。もうダメだった。

 

大学の講義が終わってご飯を済ませて狭いベランダに弦を外したテレキャスターを飾った。なんともチャチなオモチャだよなぁなんて思いながら鋸を用意した。

 

どうせ近いうちに金でも入ったらいいやつ買うんだろうなぁと思った。次エレキギターを持つ時の俺はきっと彼女のように自由に生きていて欲しいと願って。彼女に憧れるなら先ずはベスパとベースからかな?なんて思ったりもした。これで中学時代から患ってきた病気とも一旦オサラバ。大人ぶってカッコつけてしまう呪いのアイテム、エレキギター。子供のままでいることの良さが理解出来た気がする。フリクリに被れすぎだろ。まぁいいか。

 

作業に取り掛かる前にピースを口に咥えた。「さよなライオンなんて言わせない」と寒い呪文を頭に浮かべながら火をつけ、犬歯で噛み締めた。鋸でネックを分断してる際に鼻を何度かすすった。煙が目にしみる。木屑が少し濡れた。少し部屋が寂しくなった。